Kistar the other side 第28回
開放F2.4のヒミツ

写真・文=澤村 徹

前回の本コーナーにて、Kistar 40mm F2.4を速報的にレポートした。作例を中心に解説したので、Kistar 40mm F2.4が特異な描写のパンケーキレンズであることはおわかりだろう。パンケーキレンズは堅実に写るものが多いなか、Kistar 40mm F2.4は球面ズミルックスのように開放が柔らかい。この緩急の効いた描写はどこから生まれているのか。今回はハード面からKistar 40mm F2.4を掘り下げていこう。

そもそもこのレンズは、開発陣の「小さいスナップレンズがほしい」というニーズが発端だという。小型レンズという方向性から、定番どころのパンケーキスタイルをチョイス。ヤシカ/コンタックスマウントのTessar 45mmF2.8あたりをイメージするとわかりやすいだろう。これだけならごく普通の方向性だ。Kistarシリーズはここにひとひねり加える。小さくて“楽しめる”レンズにしたいと考えたのだ。

本レンズ(KSEマウント)の全長は36.5ミリ。ミラーレス用のマウントを採用しているので、パンケーキならではのスリムさが際立つ。

ピントリングを最短撮影距離にセットしたところ。レンズ先端の繰り出しはさほど大きくない。

楽しめるレンズというと、真っ先に思い浮かぶのは大口径タイプだ。大口径レンズの大きなボケや開放の滲みは、レンズを操る楽しさを教えてくれる。Kistarシリーズも35mm F1.4や55mm F1.2のように大口径タイプは得意とするところだ。ただし、大口径レンズはレンズ自体が大きくなり、小さいスナップレンズという条件から逸脱してしまう。小さくて楽しめるレンズというのは、ちょっとした矛盾をはらんでいるわけだ。

開放F2.4とF4の間、F2.8にクリック感がある。甘さと堅実さが同居した絶妙な描写を味わえるポイントだ。

絞り羽根は6枚で、絞り穴は6角形になる。シングルコートが施してある。

では、Kistar 40mm F2.4はどうやって「小さくて楽しめるレンズ」を目指したのか。本レンズは3群4枚のテッサー型を採用している。テッサー型レンズは、開放F2.8というのがお約束だ。先に挙げたヤシコンのTessar 45mmF2.8もテッサー型で、開放はF2.8である。このスペックならおおむね開放からシャープに写る。そうした常識を、Kistar 40mm F2.4は打ち破る。そう、開放F2.4と少しだけ明るい設計になっているのだ。レンズマニアがよくいう「無理をした設計」というやつだ。

大口径化にともない収差が残り、それが甘い描写へとつながる。もちろん、ただ収差が残ればいいというものではなく、撮影者が好ましい、おもしろいと思ってくれるような描写にチューニングしていく。その結果がKistar 40mm F2.4の大胆な開放描写なのだ。

ドーム型の金属フードが標準付属する。通称フジツボフードと呼ばれるタイプだ。

フードに34ミリ径のネジ切りがあり、フロントキャップが装着できる。

KSEマウント(右)とKFXマウント(左)の2種類をリリース。マウントアダプター不要でミラーレス機に装着できる。

富士フイルムX-Pro1に装着したところ。フルブラックでかなり男前な面構えだ。

X-Pro1はグリップの小さいフラットなボディなので、本レンズのスリムな姿がよく伝わってくる。

その一方、鏡胴や外観にもこだわっている。小型化をコンセプトとしたレンズなので、従来からのKCYマウントではなく、あえてミラーレスのネイティブマウントを採用した。KSEマウント(ソニーEマウント互換)とKFXマウント(フジフイルムXマウント互換)の2タイプ展開だ。マウントアダプター不要でミラーレスに装着でき、そのスリムさが際立つ。パンケーキレンズお約束のドーム型フードも標準付属し、これを付けた姿が実に凜々しい。Kistarシリーズならではの昭和テイストと確かな造形を、ミニマルに体現した1本だ。

 

Kistar 40mm F2.4


Kistarシリーズ4本目となるパンケーキレンズです。ミラーレス機に直接装着できるように、ソニーEマウントとフジフイルムXマウントを採用しました。レンズ構成は3群4枚のテッサー型。開放F2.4とやや明るめに設計することで、オールドレンズテイストの甘い開放描写を実現しています。発売は2020年11月、税込価格66,000円を予定しています。

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