写真・文=澤村 徹
シリーズ第3弾となるKistar 85mm F1.4は、いわゆる大口径ポートレートレンズだ。ポートレート専用レンズというわけではないが、やはり人物撮影での描写が気になる。そこで今回は、屋外にて女性ポートレートを撮影してみた。
ポートレートでの描写を見ていく前に、Kistar 85mm F1.4の基本的な描写傾向をおさらいしておこう。他のKistarシリーズ同様、このレンズもオールドレンズを意識した描写傾向を備えている。端的に言うと、開放でやわらかく、絞るにつれて硬くなる。こうした傾向を踏襲しつつ、ポートレートで使いやすい味付けがなされている。
まず、Kistar 85mm F1.4は開放からシャープだ。他のKistarは開放で滲むようにチューニングされているが、このKistar 85mm F1.4はさほど滲まない。人物の瞳にピントを合わせると、線の細い繊細なシャープネスでしっかりと解像する。女性ポートレートと滲みは好相性であるものの、チューニングでそれを演出してしまうと、ハマリすぎてあざとい印象が否めない。それよりも、繊細なシャープネスの方が時代を問わない正統派の表現だろう。むろん、前ピンで撮れば滲みは作り出せるので、好みでピント位置を微調整して描写変化を楽しみたい。
今回のポートレート撮影ではフレアがいい雰囲気を醸し出してくれた。Kistar 85mm F1.4はけっして逆光に弱いレンズではないが、やはり中望遠なので、フードなしの開放撮影はそれなりにフレアが発生する。見方を変えると、フードなしの開放撮影なら、逆光から半逆光でたいていフレアが出せる。ポートレートの演出としてフレアを活用できるわけだ。一般的な現行レンズは逆光耐性があり、フードの有無を問わず、フレアはかなり抑え込まれている。こうしたことを踏まえると、Kistar 85mm F1.4はフレアを明示的に出せる得がたいレンズと言えるだろう。そしてこのフレアは、1~2段絞るだけでスッと画面から消えていく。逆光でフレアが出っぱなしということではなく、絞りでフレアの制御が可能だ。この点はKistar 85mm F1.4の大きなアドバンテージになるだろう。
Kistar 85mm F1.4は、ポートレート撮影の楽しさを改めて教えてくれる。開放のシャープさ、ボケ味、フレアの出方など、その描写は条件によってころころと表情を変える。どうすれば描写変化を我が物にできるのか。そんなことを考えながら撮っていると、レンズを使いこなすよろこびが湧き起こる。レンズの描写に合わせ、被写体となる人物の魅力を多角的に引き出せるだろう。
Kistar 85mm F1.4
Kistar 85mm F1.4は、木下光学研究所オリジナル設計による大口径ポートレートレンズです。トラディッショナルなダブルガウス型を採用し、ナチュラルテイストのポートレート撮影を実現します。絞り込んでも繊細なタッチを宿し、過度に硬くならず、あくまでも自然な解像感を重視しました。オールドレンズテイストを宿しつつ、高描写を目指した大口径ポートレートレンズです。