写真・文=澤村 徹
Kistarレンズを使っていて、もっと寄りたいと思ったことはないだろうか。Kistar 35mm F1.4の最短撮影距離が0.3m、Kistar 55mm F1.2は0.5m、そしてKistar 85mm F1.4が0.8mだ。35mm F1.4と55mm F1.2は十分に寄れるが、85mm F1.4はどうだろう。ポートレート撮影には十分な距離感だが、小さな被写体を捉えたいとき、寄り切れないストレスは否めないところだ。そこで、Kistar 85mm F1.4でマクロアダプターを試してみた。マクロアダプターはマウントアダプターにヘリコイドを組み込み、近接撮影を可能にした製品だ。通常、KistarレンズをソニーEマウントボディに装着する場合、CY-SE(ヤシカ/コンタックス-ソニーE)マウントアダプターを使う。マクロアダプターを使う際はマウントアダプターを二段重ねすることになる。
※本稿は澤村徹が独自にテストした結果であり、木下光学研究所がKistarレンズとマクロアダプターの動作を保証するものではありません。同様のことを試す際は自己責任にてお願いいたします。
まず、レンズにCY-LM(ヤシカ/コンタックス-ライカM)マウントアダプターを付けてライカMマウント化し、そこにLM-SEマクロアダプター(ライカM-ソニーEのマクロアダプター)を装着する。ライカMマウントをブリッジマウントとして利用し、マクロアダプターを組み込むわけだ。また、マクロ機能付きのCY-SEマウントアダプターもあるので、予算や手持ちも機材に合わせて構成を考えるといいだろう。
撮影する際はレンズを最短撮影距離にセットし、その上でマクロアダプターのヘリコイドを繰り出していく。レンズの焦点距離、およびヘリコイドの繰り出し量にもよるが、レンズの最短撮影距離の約半分ぐらいまで寄ることが可能だ。Kistar 85mm F1.4の場合、おおむね40cmぐらいまで寄れる。中望遠で40cm前後まで寄ると、かなりクローズアップした雰囲気になるだろう。
実写してみると、想像を超える大きなボケに圧倒された。Kistar 85mm F1.4はそもそも開放で大きなボケを生み出すレンズだが、開放でクローズアップすると大きなボケに翻弄されることだろう。被写界深度がとにかく浅く、ライブビューの拡大表示を使ってもピント合わせが困難なほどだ。2段ほど絞ってマクロ撮影すると、輪郭の切り立った様子とボケのバランスが良くなった。
レンズの最短撮影距離以下での撮影は、ありていに言えばメーカー保証外の描写であり、見方を変えれば設計者の意図を超えた領域とも言える。マクロアダプターでKistarレンズの未知の描写を楽しんでみるのも一興だろう。
Kistar 85mm F1.4
Kistar 85mm F1.4は、木下光学研究所オリジナル設計による大口径中望遠レンズです。トラディッショナルなダブルガウス型を採用し、ナチュラルテイストのポートレート撮影を実現します。絞り込んでも繊細なタッチを宿し、過度に硬くならず、あくまでも自然な解像感を重視しました。オールドレンズテイストを宿しつつ、高描写を目指した大口径中望遠レンズです。