Kistar the other side 第53回
天候条件を変えてKISTAR 28mm F3.2 Mを試す

写真・文=澤村 徹

KISTAR 28mm F3.2 Mのプロトタイプによる試写第2弾をお送りしたい。プロトタイプと言っても変更箇所は外観のみで、レンズ自体は製品相当だ。以降に紹介する作例が本レンズの実力と思ってもらって問題ない。

前回は「滲む広角」という点にフォーカスして紹介した。今回はその「滲む広角」をいろいろなシーンで使ってみた。晴れ、曇り、雨、そして夕暮れ。フィールドテストとまではいかないが、光や天候の違いでKISTAR 28mm F3.2 Mがどんな表情を見せるのか、紹介していこう。

本レンズの開放はF3.2とやや暗め。暗所撮影では開放でも多少気をつかう。開放で滲むと言ってもシャープネス自体は鋭さがある。この滲みが気に入っているなら、開放から絞る必要性すら感じないだろう。

一番の関心事は、開放の滲みがどう変化するのか、また変化しないのか、という点だろう。たとえばオールドレンズには、ハイライトがブワッと滲むレンズがある。しかし、光源や明るい場所がないシーンは実に大人しい。滲みが魅力のレンズとて、いつも滲むわけではない。

その点、KISTAR 28mm F3.2 Mは安心していい。いつでもどこでも滲んでくれる。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1500秒 ISO64 AWB RAW 打ち付けられる波を待ちながら開放撮影した。この広い視野でやさしく滲む絵作り。このレンズでしかなし得ない。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/250秒 ISO64 AWB RAW F5.6まで絞るとこれだけシャープな写りになる。ただし、周辺は若干流れ気味。F11以降で周辺まで解像する。くっきりとした建物の影が印象的だ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/3000秒 ISO64 AWB RAW クルーザーの白に露出を合わせ、ややアンダーに撮影した。暗い空と水面が重厚感を増す一方、開放の滲みが幻想的な雰囲気を醸す。濃くてやさしい不思議な写りだ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F4 1/400秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 近接なのでF4まで絞った。わずか半段とは言え、中心部の切れ味がよくなる。タイヤに落ちる草木の淡い影がいい雰囲気だ。

雨降りだろうが重い雲が敷き詰められていようが、開放なら無条件で滲む。ハイキーでもアンダーでも問答無用で滲みが生まれる。そのくせ絞り込むと、中心部から切れ味のいいシャープネスを見せる。結果として滲むのではない。設計段階から滲ませることを目的としているだけあって、撮影時は描写の変化が実にハンドリングしやすい。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1000秒 ISO64 AWB RAW 暗く重い曇天での撮影だ。アンダーな写真でも滲みがしっかりと伝わってくる。「滲み=やさしい」というステロタイプな印象に収まることなく、自由な発想で撮れるレンズだ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/125秒 ISO64 AWB RAW 厚いガラス越しに雨中のカモメを開放撮影した。この写真も重さとやさしさが入り交じる。滲みのおかげで前ボケが増している気がする。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/45秒 ISO64 AWB RAW これもガラス越しの撮影だが、コントラスト低下はさほど気にならない。こういう落ち着きのある写真はソフトな描写が似合う。

逆光についてはそれなりにフレアとゴーストが発生する。絞るほどに光がきつくなるタイプのフレア・ゴーストだ。ただし、滲みとフレアが合わさって画面が真っ白……ということはない。むしろ逆光でもシャドウがよく締まるほうだ。逆光で絵作りが破綻することはない。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/500秒 ISO64 AWB RAW 逆光ではフレア・ゴーストが出やすい。絞り込むとフレア・ゴーストの光が強くなり、また滲みが消えて先鋭感が増す。開放と対照的な写りがおもしろい。

ここに掲載した写真はすべてデジタルM型ライカでレンジファインダー撮影した。被写界深度が深めのレンズなので、ピント合わせでシビアになる必要はない。絞りで滲み具合を調整しながら、気軽にスナップできる。撮影自体はイージーだが、出てくる写真はとびっきりの個性派。すごいレンズが現れたものだ。発売は2025年春頃の予定だという。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/640秒 ISO64 AWB RAW 斜光が足場の長い影を描いていた。夕刻の西日でも滲みは健在だ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/640秒 ISO64 AWB RAW 夕刻、太陽を背にクレーンにピントを合わせる。鉄柵の長い影が柔らかく写り、モノクロにしたらいい雰囲気になりそうだ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1600秒 ISO64 AWB RAW 西日が反射した船橋をとらえ、結果としてアンダーに。それでもふわっとした柔らかさが伝わってくる。

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