写真・文=澤村 徹
昨今、デジタル赤外線写真がマニアの間で人気だ。中国製の安価な赤外線フィルター、ミラーレスを改造した赤外線専用機など、多少下準備すれば赤外線撮影ができる。濃い青空に白い葉をまとった木。真夏の樹氷のような写真が撮れるのだ。今回はKISTARレンズで赤外線撮影にチャレンジしてみたい。
フィルム時代のモノクロ赤外線写真を見ると、ハイライトがぶわっと滲んだものがある。あれはコダックHIEという赤外線フィルム特有の写りと言われているが、ああいう柔らかい赤外線写真をデジタルでも撮れないだろうか。そんな目論みからKISTARレンズで赤外写真を撮ってみようと思った。KISTARレンズはどれも開放が柔らかいが、わかりやすく暴れるレンズと言えばKISTAR 55mm F1.2だろう。あの自由奔放な写りが赤外線撮影でも発揮されるのか、期待がかかる。
ボディは赤外改造したα7 IIを使った。イメージセンサー前のローパスフィルターを剥がし、代わりにIR720の赤外線フィルターが貼り付けてある。ボディ側で可視光線をカットするため、レンズに赤外線フィルターは不要。どんなレンズでも付ければすぐに赤外線撮影できるわけだ。この赤外改造ボディにマウントアダプターでKISTAR 55mm F1.2に装着した。
実写すると、狙い通り柔らかい赤外写真が撮れた。葉や草がフワフワと軽い質感で描かれている。大口径F1.2のおかげで前後にボケも生まれ、中遠距離で撮っても立体感が絶妙だ。KISTAR 55mm F1.2の特徴と赤外線写真の独自性がうまく噛み合っている。KISTARレンズは赤外線写真のいいアクセントになってくれるだろう。
デジタル赤外線写真の画像編集に触れておこう。先の真夏の樹氷のような写真は、シャッターを切るだけで撮れるわけではない。撮って出しは真っ赤な画像になる。IR720相当の赤外線フィルターを使うと、赤外線とすぐ隣にある可視光線(赤い波長)をいっしょに写し込むからだ。この真っ赤な画像のホワイトバランスを整え、カラースワップと呼ばれる独自の画像編集を加える。制作には専門知識が必要となるが、手品のように画像が様変わりしておもしろい。
デジタル赤外線写真はかなりハードな画像編集をともなう。しかし、KISTAR 55mm F1.2の描写テイストは編集後もしっかりと感じることができた。むろん、どんなレンズでもこうした結果が得られるわけではない。そもそも個性の強いKISTARレンズだからこそ、きつい加工を経てもその印象的な描写が生き残るのだ。
Kistar 55mm F1.2
Kistar 55mm F1.2は、富岡光学のTominon 55mm F1.2をベースに、木下光学研究所が復刻生産した大口径標準レンズです。当時の設計者の指導の下、開発思想を受け継ぎ、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を再現しました。大口径ならではの透明感のあるレンズを再現するため、当時と同じピッチ研磨でレンズを磨いています。古いカメラは勿論、現代のカメラにもマッチするヤシカコンタックス風の外観を採用し、ヘリコイドはしっとりとした作動感を再現するため、当時と同じ現合ラップ仕上げを用いました。