Kistar the other side 第42回
KISTARレンズでイルミネーション

写真・文=澤村 徹

 

日常が戻ってきたことを、日々のちょっとした出来事から感じる。家にストックしているマスクの数、デスクトップから消えたZOOMのアイコン、SNS上の旅写真、始発から満席の新幹線……。そして地元の公園で、今年はイルミネーションが復活するという。あれから3年。短いとはいえぬ時間が過ぎた。KISTARレンズを携え、家族でイルミネーションを見に行った。

開放F1.4と大口径なので、暗所でもISO感度をあまり上げずに済んだ。ただ、シャッター速度は1/30秒まで落ちることがあり、丁寧な撮影が欠かせない。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/80秒 ISO100 AWB RAW イルミネーションを撮影中のスマートフォンにピントを合わせる。玉ボケと化したイルミネーションが画面いっぱいに押し寄せる。

4種類あるKISTARレンズから、今回は35ミリF1.4を選んだ。イルミネーション撮影といえば玉ボケがお約束。この観点からすると、広角よりも望遠系のほうが大きな玉ボケが撮れる。それでもあえて35ミリを選んだ。理由は家族連れだから。いまどきのデジタルカメラはすぐれた手ブレ補正機能を搭載しているが、暗所ではやはり気をつかう。広角レンズのほうが手ブレ耐性があり、気負わずにシャッターが切れる。家族といっしょに撮り歩くことを思うと、やはり気軽に撮れる機材がいい。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 +0.7EV ISO320 AWB RAW 樹木のイルミネーションを前後に配置し、開放で立体的に撮る。前ボケがかすかにぐるぐるボケの気配があり、興を添えてくれる。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 ISO800 AWB RAW オレンジ色の光がわずかに滲み、KISTARレンズならではの柔らかい写りだ。それでいてシャドウが締まっているのがいい。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 ISO160 AWB RAW 人物のまつげにピントを合わせる。開放が柔らかいレンズだが、シャープネスはけっして甘くない。後ボケの引きつるような写りがおもしろい。

今回は開放オンリーで撮影した。KISTARレンズの旨みは開放の柔らかさ。それはイルミネーションのような特殊な被写体でも変わりない。後ボケはざわつき、玉ボケは周辺にいくほど円という形を手放す。それでいて中心部は繊細なシャープネスだ。ひと言で表わすと、絵に奥行きがある。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 +0.7EV ISO160 AWB RAW 玉ボケが残像をともない、まるで意志を持って飛び回っているかのようだ。ハイライトの粘りがいい。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 ISO500 AWB RAW アスファルトに投影された機関車を撮影。シャドウがしっかりと落ちて機関車が引き立つ。

α7 IV + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 ISO100 AWB RAW ゴーグルに映ったイルミネーションにピントを合わせる。点にならずに流れるところがKISTARレンズの妙味だ。

この日は完全に暗くなってからの撮影だったが、できれば薄暮の時間帯を狙いたかった。残光とイルミネーションが独特のトーンを醸し出し、そこにKISTARレンズが収差たっぷりの写りを覆い被せる。写りに個性のあるレンズの特権だ。撮りたいもの、撮るための工夫、KISTARレンズを手にするだけでいろいろな思いが募る。大手を振って撮影が楽しめる日を心待ちにしている。

 

Kistar 35mm F1.4


Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。

関連記事