写真・文=澤村 徹
日常が戻ってきたことを、日々のちょっとした出来事から感じる。家にストックしているマスクの数、デスクトップから消えたZOOMのアイコン、SNS上の旅写真、始発から満席の新幹線……。そして地元の公園で、今年はイルミネーションが復活するという。あれから3年。短いとはいえぬ時間が過ぎた。KISTARレンズを携え、家族でイルミネーションを見に行った。
4種類あるKISTARレンズから、今回は35ミリF1.4を選んだ。イルミネーション撮影といえば玉ボケがお約束。この観点からすると、広角よりも望遠系のほうが大きな玉ボケが撮れる。それでもあえて35ミリを選んだ。理由は家族連れだから。いまどきのデジタルカメラはすぐれた手ブレ補正機能を搭載しているが、暗所ではやはり気をつかう。広角レンズのほうが手ブレ耐性があり、気負わずにシャッターが切れる。家族といっしょに撮り歩くことを思うと、やはり気軽に撮れる機材がいい。
今回は開放オンリーで撮影した。KISTARレンズの旨みは開放の柔らかさ。それはイルミネーションのような特殊な被写体でも変わりない。後ボケはざわつき、玉ボケは周辺にいくほど円という形を手放す。それでいて中心部は繊細なシャープネスだ。ひと言で表わすと、絵に奥行きがある。
この日は完全に暗くなってからの撮影だったが、できれば薄暮の時間帯を狙いたかった。残光とイルミネーションが独特のトーンを醸し出し、そこにKISTARレンズが収差たっぷりの写りを覆い被せる。写りに個性のあるレンズの特権だ。撮りたいもの、撮るための工夫、KISTARレンズを手にするだけでいろいろな思いが募る。大手を振って撮影が楽しめる日を心待ちにしている。
Kistar 35mm F1.4
Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。