Kistar the other side 第26回
お散歩スナップ35mm最強説

写真・文=澤村 徹

近所を散歩しながらスナップする。そんなお散歩スナップは何mmのレンズがいいだろう。景勝地や観光地ではないため、目の前の風景は月並みなもの。被写体を上手に切り取りながらのスナップになる。こう考えると、標準レンズや中望遠レンズを使ってピンポイントで被写体を切り抜くのが順当に思える。しかし、ことKistarレンズに関しては、35mm F1.4を推したい。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/5000秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 花壇のチューリップを斜俯瞰で撮影した。開放F1.4だけあって、35mmでも大きくボケる。柔和な描き方も含め、日常を非日常に変えるレンズだ。

35mmという焦点距離は、ライカユーザー、特にストリートスナップを撮るライカユーザーに好まれる。35mmレンズは目の前の被写体に加え、周囲の状況も写し込めるからだろう。また、標準レンズよりも被写界深度が深いため、レンジファインダーでピント合わせしやすいというライカ固有の事情もある。しかしながら、お散歩スナップの場合は話が別だ。なにしろ撮影場所はご近所。ごく普通の住宅地だ。フォトジェニックな被写体を見つけても、35mmレンズだと写したくないものまでフレームインしてしまう。ここがお散歩スナップの難しいところである。

幸いなことに、Kistar 35mm F1.4は近接に強いレンズだ。最短撮影距離は30cm。この近接性能こそがお散歩スナップに本レンズを薦める理由である。開放F1.4のまま近接撮影すると、どんな被写体でも非日常的な写りになる。画角を失念するほどの被写界深度の浅いクローズアップ撮影が可能だ。お散歩スナップのみならず、家の中で小物を撮ったり、テーブルフォトを撮る際にも圧倒的な個性を発揮するはずだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/5000秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW 本レンズの最短撮影距離30cmで撮影した。小さな花にしっかりとクローズアップでき、極浅の被写界深度がスリリングだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/2500秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW 原っぱのナズナに最短でピントを合わせた。大きなボケの海からピントの合ったナズナだけが顔を出す。ひとの視覚を遥かに超えた描き方だ。

さらにマクロアダプターを併用すれば、とても近場で撮ったとは思えない表現豊かな写真に仕上がる。ただし、もともとが最短30cmと寄れるレンズなので、ここからのクローズアップは被写界深度が極端に浅くなる。開放よりも1~2段絞った方が絵的に落ち着きがあるだろう。

SHOTENのライカMヘリコイドアダプターを付け、さらにRAYQUALのCY-LMを装着。レンズを最短にセットし、その上でヘリコイドアダプターを繰り出していく。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/2000秒 +1.3EV ISO100 AWB RAW ヘリコイドアダプターを少し繰り出し、チューリップに迫る。花びらの筋がしっかりと視認できる。広角マクロであることを忘れそうなクローズアップぶりだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/2000秒 +1.3EV ISO100 AWB RAW カメラのチルト液晶を起こし、見上げる形でチューリップに迫る。レンズの最短だとまだ遠かったので、ヘリコイドアダプターを気持ち繰り出した。上方からフレアが射し、35mmという画角を改めて意識した。

一方、ピンポイントで被写体を切り抜いた写真ばかりでは単調だ。中間距離で開放F1.4という大口径をフルに活用しよう。たとえば、道端にきれいな花が咲いていたとする。開放で花をとらえつつ、近くの電柱も写し込む。開放撮影なので電柱はボケることになるが、大口径とはいえ広角なので、背景はフォルムを保った状態でボケる。花だけでなく、花の咲く状況も一緒に、しかもさりげなく写し込めるのだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/8000秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 枝に止まったカラスにピントを合わせる。開放で手前の樹木をうっすらとボカし、立体感のある絵作りを狙う。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/8000秒 ISO100 AWB RAW 鉄柵の錆が気になり、ピントを合わせた。カメラを少しだけ傾け、背景に団地の給水タンクを写し込む。このちょっとした広がりが35mmの強みだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/4000秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW 開放でフェンスを乗り越えた桜をとらえる。手前の鉄柱が大きな前ボケと化し、強烈な立体感を生み出している。

Kistar 35mm F1.4は日常的なシーンを劇的に変化させ、様々なエッセンスを写真に付与してくれる。身近な光景ほど、その変化に驚かされる。写真はどこでも撮影でき、どんな被写体もフォトジェニックになることを、Kistar 35mm F1.4がおしえてくれた。

 

Kistar 35mm F1.4


Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。

関連記事