写真・文=澤村 徹
近所を散歩しながらスナップする。そんなお散歩スナップは何mmのレンズがいいだろう。景勝地や観光地ではないため、目の前の風景は月並みなもの。被写体を上手に切り取りながらのスナップになる。こう考えると、標準レンズや中望遠レンズを使ってピンポイントで被写体を切り抜くのが順当に思える。しかし、ことKistarレンズに関しては、35mm F1.4を推したい。
35mmという焦点距離は、ライカユーザー、特にストリートスナップを撮るライカユーザーに好まれる。35mmレンズは目の前の被写体に加え、周囲の状況も写し込めるからだろう。また、標準レンズよりも被写界深度が深いため、レンジファインダーでピント合わせしやすいというライカ固有の事情もある。しかしながら、お散歩スナップの場合は話が別だ。なにしろ撮影場所はご近所。ごく普通の住宅地だ。フォトジェニックな被写体を見つけても、35mmレンズだと写したくないものまでフレームインしてしまう。ここがお散歩スナップの難しいところである。
幸いなことに、Kistar 35mm F1.4は近接に強いレンズだ。最短撮影距離は30cm。この近接性能こそがお散歩スナップに本レンズを薦める理由である。開放F1.4のまま近接撮影すると、どんな被写体でも非日常的な写りになる。画角を失念するほどの被写界深度の浅いクローズアップ撮影が可能だ。お散歩スナップのみならず、家の中で小物を撮ったり、テーブルフォトを撮る際にも圧倒的な個性を発揮するはずだ。
さらにマクロアダプターを併用すれば、とても近場で撮ったとは思えない表現豊かな写真に仕上がる。ただし、もともとが最短30cmと寄れるレンズなので、ここからのクローズアップは被写界深度が極端に浅くなる。開放よりも1~2段絞った方が絵的に落ち着きがあるだろう。
一方、ピンポイントで被写体を切り抜いた写真ばかりでは単調だ。中間距離で開放F1.4という大口径をフルに活用しよう。たとえば、道端にきれいな花が咲いていたとする。開放で花をとらえつつ、近くの電柱も写し込む。開放撮影なので電柱はボケることになるが、大口径とはいえ広角なので、背景はフォルムを保った状態でボケる。花だけでなく、花の咲く状況も一緒に、しかもさりげなく写し込めるのだ。
Kistar 35mm F1.4は日常的なシーンを劇的に変化させ、様々なエッセンスを写真に付与してくれる。身近な光景ほど、その変化に驚かされる。写真はどこでも撮影でき、どんな被写体もフォトジェニックになることを、Kistar 35mm F1.4がおしえてくれた。
Kistar 35mm F1.4
Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。