写真・文=澤村 徹
Kistarレンズは周知の通り、昭和のレンズを現代の技術で甦らせた製品だ。現行レンズのように解像度とコントラストで押し切るのではなく、どこか温かみのある描写が特長だ。さあ、そんなKistarレンズで何を撮ろうか。昭和のレンズのリバイバルなのだから、昭和の風景を撮るのはどうだろう。Kistar 55mm F1.2を携え、昭和の象徴たる団地街をスナップしてみた。
Kistar 55mm F1.2は富岡光学の名レンズ、Tominon 55mm F1.2を復刻したものだ。1970年代の大口径標準レンズが元ネタというわけだ。1970年代は昭和40年代頃に相当する。公団住宅の全盛期だ。いま40~50代の方なら、幼少期の思い出に団地の姿が浮かんだり、また実際に住んでいたという人もいるだろう。さながら昭和の原風景といったところだ。
実際にKistar 55mm F1.2で団地を撮っていく。青空を背景した団地を、開放F1.2で撮る。晴天下のF1.2はいくぶん露出オーバーになるが、ハイキーで撮った団地は昭和の休日そのものだ。そこに開放の滲みが加わり、追憶のイメージが完成する。
昨今、この手の集合住宅はリノベーションが進んでいる。とは言え、当時のままの姿で建つ団地はかなりの数があり、一階部分の店舗は年季の入った姿のまま佇んでいる。こうした時間の積層を強調したいときはF2まで絞る。Kistar 55mm F1.2は絞るほどに硬い描写になるが、その境目がF2だ。開放の柔らかさと打って変わり、目に見えてコントラストが強くなる。しっかりと沈んだシャドウと細部の緻密な描き方は、被写体が数十年にわたってここに居続けたことを際立たせるだろう。
Kistar 55mm F1.2は、昭和40年代の姿と、それから数十年を経た現在の姿を、それぞれの時間に寄り添うように見せてくれる。それは撮る者の思い込みにすぎないかも知れないが、そう感じさせてくれるところにKistarレンズの価値があるのだ。
Kistar 55mm F1.2
Kistar 55mm F1.2は、富岡光学のTominon 55mm F1.2をベースに、木下光学研究所が復刻生産した大口径標準レンズです。当時の設計者の指導の下、開発思想を受け継ぎ、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を再現しました。大口径ならではの透明感のあるレンズを再現するため、当時と同じピッチ研磨でレンズを磨いています。古いカメラは勿論、現代のカメラにもマッチするヤシカコンタックス風の外観を採用し、ヘリコイドはしっとりとした作動感を再現するため、当時と同じ現合ラップ仕上げを用いました。