写真・文=澤村 徹
キスター35ミリF1.4はKCYマウントを採用している。これは有り体に言うと、ヤシカ/コンタックス互換マウントだ。マウントアダプターを装着してミラーレス機での使用を想定しているが、どうせマウントアダプター経由なら、デジタル一眼レフで使いたいという人もいるだろう。今回はキスター35ミリF1.4をキヤノンのフルサイズデジタル一眼レフで試してみた。
まず、ボディはEOS 5D Mark IIを使用した。フルサイズのイメージセンサーを搭載したデジタル一眼レフである。マウントアダプターはレイクォールのCY-EOSを選び、キスター35ミリF1.4に装着した。この組み合わせで内部干渉することなく撮影が可能だ。無限遠については、厳密に言うとごくわずかにオーバーインフだったが、1~2段絞るとほぼジャストに感じられる。通常の遠景撮影であれば、レンズの∞マークまで回し切って問題ない。
ちなみに、キスター55ミリF1.2は後玉が大きく飛び出しているため、フルサイズのEOSデジタル一眼レフだと内部干渉する。フルサイズのEOSデジタル一眼レフで撮れるのは、キスター35ミリF1.4のアドバンテージだ。
このEOS 5D Mark IIとキスター35ミリF1.4のセットアップで、伊豆北川を撮り歩いた。伊豆北川は温泉宿として有名な傍ら、その実、各駅停車しか停まらない無人駅だ。駅から海を目指すと、猫の額ほどの土地に民家が身を寄せ合い、その向こうに申し訳程度の小さな漁港が見える。まずは漁港から攻めていく。漁船の舳先にピントを合わせ、絞りを開け気味のままシャッターを切る。港の様子を広く写し込みつつ、漁船だけが風景から際立つ。キスター35ミリF1.4を持ち出すのであれば、こうした奥行き感のあるスナップが楽しい。
山に目を転じると、急斜面に民家とミカン畑が点在する。海沿いの道から路地に入り、細い階段を上へ上へと登っていく。この細い階段があちらこちらの民家をつなぎ、それは一筆書きのようであり、迷路のようでもある。
村を見下ろせる場所に立つ。眼下をトンネルから出てきた列車が走り、その下を国道がカーブしながらくぐり抜ける。こういうシーンはしっかりと絞って撮る。開放ではゆるく写るキスター35ミリF1.4だが、F4以降は隅々までシャープだ。シャープと言ってもギスギスすることなく、遠くをのんびりと眺めるような自然な描き方が心地良い。レンズ1本でも単調になることなく、いろいろなテイストでスナップできる。それがキスター35ミリF1.4の良いところだ。
Kistar 35mm F1.4
Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。