Kistar the other side 第55回
KISTAR 28mm F3.2 Mは二刀流だ!

写真・文=澤村 徹

 

かつては宮本武蔵、現在は大谷翔平。二刀流への憧れは今も昔も変わらない。それは写真用レンズについてもしかりだ。硬調と軟調、ふたつの顔を持つレンズは、古くから名レンズとして珍重されてきた。今年の初夏発売予定のKISTAR 28mm F3.2 Mは、そうした二刀流の描写を備えたレンズである。

本原稿はプロトタイプのKISTAR 28mm F3.2 Mで制作している。レンズ自体は製品版相当で、外観デザインに若干の修整が入る予定だ。

その二刀流っぷりを堪能してもらうために、同一シーンで開放と絞ったときの写真を並べてみた。開放の滲みがいかほどのものか、そしてどの程度絞るとどれくらいシャープになるのか。その様子をじっくりと確かめてほしい。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1250秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW コンクリートでできた塔から湯気がのぼる。コンクリートのハイライトが滲み、塔全体が蒸気を発しているみたいだ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/640秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW F5.6まで絞ると、ピントを合わせたコンクリートの塔がシャープに結像する。別のレンズで撮ったみたいな豹変っぷりだ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/800秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 無限遠での開放撮影だ。周辺部ほど滲み像の流れが強く感じられる。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F8 1/250秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW F8まで絞って無限遠撮影した。ほぼパンフォーカスだが、最周縁部に若干の甘さが残る。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/125秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 温泉の配管を開放で捉える。湯気と開放の滲みが相まって、光景に相応しい写りになった。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/80秒 -0.67EV ISO100 AWB RAW 近距離でF5.6まで絞っている。ピント位置は中央の配管だ。合焦部は実にシャープ。それ以外はほどよく甘さが残る。

暗めの広角レンズは開放からシャープと相場が決まっているが、このKISTAR 28mm F3.2 Mは開放F3.2と暗めなのに開放で滲みが出る。そして1~2段絞ると一気にシャープな描写になるのだ。広角レンズでありながら、絞りリングで描写の緩急を切り換えられる。まさに二刀流である。

わかりやすいのは開放F3.2とF5.6の比較だ。F5.6まで絞ると中心部が一気にシャープになり、開放との違いが一目瞭然だ。広角らしくパンフォーカスにしたいときは、F11~F16まで絞る。F8だとまだ周辺部に甘さが残る印象だ。ちなみに、F8でパンフォーカスに至らないのは他の広角レンズでもおおむね同様である。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/350秒 ISO64 AWB RAW 開放で逆光撮影した。フレアとゴーストが盛大に発生している。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F8 1/160秒 ISO64 AWB RAW 逆光のままF8まで絞った。フレアは低減したが、ゴーストはより存在感が増した。絞るとゴーストが強くなるタイプのレンズだ。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/80秒 -0.67EV ISO250 AWB RAW 開放F3.2は滲みに加え、コントラストも柔らかい。ソフトフォーカス的な使い方もできるだろう。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/80秒 -0.67EV ISO320 AWB RAW F5.6まで絞ると、シャープさとコントラストが向上する。絞ったときのシャドウの締まりの良さにも注目したい。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/160秒 ISO64 AWB RAW 前ボケを入れて開放撮影した。ボケと滲みで全面ソフトな写りになる。開放F3.2だと大きなボケは期待しづらいが、前ボケなら作りやすい。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/80秒 ISO80 AWB RAW F5.6まで絞ると、硬質な世界へと一変する。この変わり身の早さがやみつきになる。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/640秒 ISO64 AWB RAW 開放での遠景撮影だ。中心部は滲み、周辺部はいくぶん像が流れる。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F11 1/100秒 ISO64 AWB RAW F11まで絞り、パンフォーカスで撮影した。ここまで絞ると、太めの線で隅々まで結像する。

実のところ、緩急の使い分け自体はさほどめずらしいものではない。オールドレンズにはよくあるパターンだ。ただ、広角レンズで緩急のあるレンズはかなり珍しい。パッと思いつくところでは、FD 24mmF1.4 ASPHERICALという大口径広角オールドレンズぐらいだ。大口径でハンドリングが難しいうえに、中古価格は100万円超えも珍しくない。こうしたことを踏まえると、KISTAR 28mm F3.2 Mの二刀流がますます際立ってくる。いつの時代も二刀流は奇貨居くべし、である。

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