Kistar the other side
第11回 Kistar 85mm F1.4でポートレート

写真・文=澤村 徹

 

シリーズ第3弾となるKistar 85mm F1.4は、いわゆる大口径ポートレートレンズだ。ポートレート専用レンズというわけではないが、やはり人物撮影での描写が気になる。そこで今回は、屋外にて女性ポートレートを撮影してみた。

α7II + Kistar 85mm F1.4 絞り優先AE F2 1/640秒 +1.3EV ISO100 カスタムWB RAW レフ板やフラッシュを使わず、逆光条件で撮影した。誇張のない穏やかなコントラスト、そして立体感に富んだ描写が美しい。

ポートレートでの描写を見ていく前に、Kistar 85mm F1.4の基本的な描写傾向をおさらいしておこう。他のKistarシリーズ同様、このレンズもオールドレンズを意識した描写傾向を備えている。端的に言うと、開放でやわらかく、絞るにつれて硬くなる。こうした傾向を踏襲しつつ、ポートレートで使いやすい味付けがなされている。

α7II + Kistar 85mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/640秒 +1.3EV ISO100 AWB RAW 中間距離で開放撮影し、前後を大きくボカしてみた。大口径中望遠レンズならではの描写だ。わずかに前ピンにして、フォーカス面のやさしい滲みを味わう。

まず、Kistar 85mm F1.4は開放からシャープだ。他のKistarは開放で滲むようにチューニングされているが、このKistar 85mm F1.4はさほど滲まない。人物の瞳にピントを合わせると、線の細い繊細なシャープネスでしっかりと解像する。女性ポートレートと滲みは好相性であるものの、チューニングでそれを演出してしまうと、ハマリすぎてあざとい印象が否めない。それよりも、繊細なシャープネスの方が時代を問わない正統派の表現だろう。むろん、前ピンで撮れば滲みは作り出せるので、好みでピント位置を微調整して描写変化を楽しみたい。

α7II + Kistar 85mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/640秒 +2EV ISO100 AWB RAW 最短撮影距離の80センチまで寄ってみた。開放だと殊の外ボケが大きく、合焦しているのはわずかに左目のみ。幻想的なカットが撮れる。

α7II + Kistar 85mm F1.4 絞り優先AE F2 1/800秒 +1.3EV ISO100 AWB RAW 前後にボケを配して撮影した。若干ボケに乱れを感じるが、レンズの個性として楽しみたい。色づいた葉の赤が肌に反射する様がおもしろい。

今回のポートレート撮影ではフレアがいい雰囲気を醸し出してくれた。Kistar 85mm F1.4はけっして逆光に弱いレンズではないが、やはり中望遠なので、フードなしの開放撮影はそれなりにフレアが発生する。見方を変えると、フードなしの開放撮影なら、逆光から半逆光でたいていフレアが出せる。ポートレートの演出としてフレアを活用できるわけだ。一般的な現行レンズは逆光耐性があり、フードの有無を問わず、フレアはかなり抑え込まれている。こうしたことを踏まえると、Kistar 85mm F1.4はフレアを明示的に出せる得がたいレンズと言えるだろう。そしてこのフレアは、1~2段絞るだけでスッと画面から消えていく。逆光でフレアが出っぱなしということではなく、絞りでフレアの制御が可能だ。この点はKistar 85mm F1.4の大きなアドバンテージになるだろう。

α7II + Kistar 85mm F1.4 絞り優先AE F2 1/500秒 +1.3EV ISO100 AWB RAW 逆光気味のため、開放だとフレアが発生した。1段絞ってF2にすると、このように良好なコントラストで撮影できた。フレアは絞りでコントロールできる。

α7II + Kistar 85mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/500秒 +2EV ISO100 AWB RAW フレアを積極的に取り込み、作品風に仕上げてみた。解像力のあるレンズだからこそ、こういう遊び心のある撮影が成立する。

Kistar 85mm F1.4は、ポートレート撮影の楽しさを改めて教えてくれる。開放のシャープさ、ボケ味、フレアの出方など、その描写は条件によってころころと表情を変える。どうすれば描写変化を我が物にできるのか。そんなことを考えながら撮っていると、レンズを使いこなすよろこびが湧き起こる。レンズの描写に合わせ、被写体となる人物の魅力を多角的に引き出せるだろう。

 

Kistar 85mm F1.4


Kistar 85mm F1.4は、木下光学研究所オリジナル設計による大口径ポートレートレンズです。トラディッショナルなダブルガウス型を採用し、ナチュラルテイストのポートレート撮影を実現します。絞り込んでも繊細なタッチを宿し、過度に硬くならず、あくまでも自然な解像感を重視しました。オールドレンズテイストを宿しつつ、高描写を目指した大口径ポートレートレンズです。

 

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