写真・文=澤村 徹
レンズの作例は、基本的に晴天下で撮影する。光量がたっぷりある条件の方が被写体が映えるし、レンズの特性も発揮しやすい。晴天は輝度差の大きい写真が撮影でき、順光なら自ずと発色も良くなる。言うなれば、レンズにとって晴れこそ正義だ。
ただし、実際の撮影ではいつも晴れるとはかぎらない。雨に降られたり、曇天で日が射さなかったり、天候に恵まれないこともしばしばだ。そこで今回は、曇天下で撮影したKistar 35mm F1.4の作例をあえて紹介してみたい。
撮影した日の天候条件を解説しよう。厚い雲が空を覆い、時々小雨が降る。傘をさすほどではないが、午前中だというのに薄暗く、日射しはまったく期待できない。普段であれば撮影自体をやめたくなるような状況だ。ただし、こういう曇天こそ、レンズの素の描写がわかるのだ。
曇天は光がまんべんなくまわり、輝度差の小さいフラットな写りになる。そのおかげで、レンズ本来のコントラストが把握しやすい。Kistarレンズは昭和のレンズをモチーフにしているが、素のコントラストがどの程度か、曇天なら判断しやすいわけだ。また、陰影があまり付かないため、被写体のフォルムを誇張なく捉えられる。この点はKistarレンズのナチュラルなシャープネスを知る上で貴重だろう。
実写結果から考察すると、やはり穏当なコントラストというのがKistar 35mm F1.4の持ち味だと感じた。今回、曇天下ということでアンダーで撮影することが多かったのだが、それでもシャドウの奥にディテールが感じられる。シャドウが真っ黒な影になるのではなく、うっすらとディテールを感じさせるところに、Kistarレンズの昭和テイストというコンセプトを読み取ることができた。軟調レンズほどではないが、誇張のないコントラストは本レンズの持ち味だ。曇天という敬遠されがちなシチュエーションが、時としてレンズの一側面をくっきりと浮かび上がらせてくれる。
Kistar 35mm F1.4
Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。