写真・文=澤村 徹
キスターシリーズ第2弾がついにその姿を現した。2作目は広角の大口径タイプ、キスター35ミリF1.4である。35ミリF1.4と言えば、ヤシコンのディスタゴンT* 35ミリF1.4、ライカMのズミルックス35ミリF1.4など、オールドレンズ分野でも銘玉が名を連ねる。キスター35ミリF1.4はどんな個性を備えたレンズなのか。プロトタイプからその方向性を見ていこう。
第1弾のキスター55ミリF1.2は、昭和の銘玉トミノン55ミリF1.2をベースに、オールドレンズ的な味わいのある描写を現在の技術で甦らせた。第2弾となるキスター35ミリF1.4は完全な新設計レンズだ。コンセプトは前作を踏襲し、オールドレンズ的な描写を現在の技術で追求している。ただし、ノスタルジック指向のローファイなレンズというわけではない。6群8枚構成で非球面レンズとフローティングシステムを採用し、現代のレンズとして高性能高画質を求めている。その上であえて開放で甘さを残すという趣味性の高いレンズだ。また、非球面レンズの採用は、レンズの小型軽量化にも大きく貢献する。例えば、ヤシコンのディスタゴンT* 35ミリF1.4は大口径ポートレートレンズほどの大きさだ。大口径の35ミリレンズは得てして大きなものが少なくない。そうした中、キスター35ミリF1.4は標準レンズより全長が多少長い程度に収まり、常用レンズとして携行しやすいだろう。
今回は複数のプロトタイプで試写を行った。キスター35ミリF1.4は基本的に高画質レンズで、F4で画質的なピークがくるように設計されている。複数のプロトタイプを作ったのは、開放近辺での甘さをどのように演出するのが望ましいか、テストするためだ。プロトタイプの個体によって描写に微細なちがいがあるものの、開放にやわらかさを残し、1~2段絞るとシャープな絵になる。こうした基本的な姿勢は共通だ。これはキスター55ミリF1.2とも共通した方向性で、木下光学研究所の考える写真用レンズの理想像が浮き彫りになってきたと言えるだろう。なお、本年11月の発売に向けてチューニングを進めているという。