写真・文=澤村 徹
KISTAR 40mm F2.4 MはライカMマウント用のレンズだ。ミラーレス全盛の昨今、なぜレンジファインダーで撮るのか? 数ある答えの中から、ここでは曖昧さと戯れる妙味を挙げたい。
厳密なピントとフレーミングを求めるなら、ライブビューにかなうものはない。拡大表示すればどんな大口径レンズでもジャスピンが狙え、視野率100%の画面で厳密にフレーミングできる。ただし、正確に撮ることと撮影の楽しさはまた別の話だ。
すでに幾度とお伝えしてきたように、KISTAR 40mm F2.4 Mは開放の滲みが魅力のレンズだ。そうは言っても、ジャスピンだと思ったほど滲まない。おいしい滲みは少しだけピントが外れたところにある。ほんのわずかにピントを外すと、ブワッと派手に滲むのだ。これがレンジファインダーと実に相性がいい。
二重像を合致させるレンジファインダーは、その構造上、厳密なピント合わせが難しい。絞っておけば問題ないが、開放だとどんなにがんばっても自ずと限界が見える。つまり、ちゃんとピントを合わせたつもりでも、微妙に外すことがめずらしくない。KISTAR 40mm F2.4 Mなら、普通に撮るだけで滲みマシマシな写りが楽しめるわけだ。
滲ませたいならちょいピントを外せ。ただ、ワザとピントを外すのはさすがにあざとい。レンジファインダーで撮れば、ナチュラルにKISTAR 40mm F2.4 Mのおいしい描写を引き出せるのだ。
画角という点にも曖昧さがある。KISTAR 40mm F2.4 MをM型ライカに装着すると、50mmのブライトフレームが表示される。レンズの焦点距離は40mmだが、ブライトフレームは50mm。つまり、ブライトフレームよりひとまわり広く写ることになる。ちょっと広いだけなのに、これがとてもおもしろい。常に意識外のものが写り込み、驚きがある。
このおもしろさを加速させるため、今回は液晶カバー付きのケースを装着して撮影した。見た目より広く写るからどうしてもその場でプレビューを見たくなる。ちゃんとフレーミングできているだろうか。上手く撮ろうという功名心を、あえて液晶カバーで阻止するのだ。
ピント合わせもフレーミングも曖昧。家に帰って写真を確認すると、「自分はこんなに写真が下手だったのか」とついニヤニヤしてしまう。思い通りに撮れるカメラとレンズは、思った以上のものが意外と撮りづらい。KISTAR 40mm F2.4 Mをレンジファインダーで使うと、思いがけないものが撮れるようになる。さんざん撮り尽くした近所をKISTAR 40mm F2.4 Mとライカで改めて撮ってみてほしい。大胆な滲みが、意識外から写り込む被写体が、おなじみの風景に新鮮味を与えてくれるはずだ。
KISTAR 40mm F2.4 M
軽快なスナップに適したパンケーキスタイルのMマウントレンズです。距離計連動対応、フォーカシングレバーなど、レンジファインダー向けのレンズとしてこだわった造形になっています。レンズはミラーレス用のKISTAR 40mm F2.4と同等で、開放でソフトに、絞るとキレのある写りが楽しめます。