Kistar the other side
第16回 ホイアンの夜をKistarで綴る

写真・文=澤村 徹

木下光学研究所のKistarシリーズは、総じてクセの強い単焦点レンズだ。個性派レンズのおもしろさは言うまでもないが、人によってはどんなシーンで使えば良いのか、戸惑うこともあるだろう。たしかに描写と被写体のマッチングは大切だ。しかしながら、ちょっとしたコツさえおぼえれば、どんなシチュエーションでもグイグイと攻めていける。今回は海外スナップを例に、Kistarの使いこなしを紹介したい。

今回の訪問先はベトナムの世界文化遺産、ホイアンだ。16世紀以降、国際貿易港として栄え、現在も旧市街が残っている。ホイアンはランタン祭りで有名な場所で、お祭りの日以外でも、旧市街の路地はランタンで明るく照らされる。ランタンの明かりに浮かぶ旧市街、夕暮れから夜にかけての撮影がメインになりそうだ。はじめて訪れる場所なので、画角を稼げる35ミリがいいだろう。そんなことを考え、Kistar 35mm F1.4を選んだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/60秒 ISO100 AWB RAW ホイアンの中心を流れるトゥボン川は、日暮れとともに手漕ぎボートが集まってくる。開放で黄昏時を柔らかく捉える。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/160秒 ISO100 AWB RAW 夜になるとランタン屋が一斉に明かりを灯す。奥のランタンに開放でピントを合わせる。滑らかな前ボケが心地良い。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/6400秒 -0.3EV ISO100 AWB RAW 手漕ぎボートの舳先にピントを合わせた。手前の桟橋がうっすらとボケる。この奥行き感がたまらない。

Kistar 35mm F1.4はKistarシリーズの中でもっともクセがある。開放では滲みが強く、周辺描写も甘い。こうしたディフューズ感のある描写が、夜のホイアンに良く似合う。何を撮っても夢心地な描き方がおもしろい。ホイアンにKistar 35mm F1.4を持ってきたのは当たりだなと実感した。

とは言え、すべて柔らかいタッチで撮るのでは物足りない。ここが使いこなしのポイントだ。Kistarシリーズは、1~2段絞るだけで描写が豹変する。シャープネスとコントラストが引き締まり、実に端正な描写になるのだ。今回の撮影では、開放F1.4からF2までをメインで使い、パンフォーカス的な絵がほしい場面のみF4まで絞った。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F4 1/50秒 ISO100 AWB RAW 遊覧船の正面に立ち、F4まで絞ってディテールを緻密に写す。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/640秒 -0.3EV ISO100 AWB RAW 開店前のカフェにイスが積まれていた。開放で撮ると、周辺光量落ちが閑散とした雰囲気をうまく表現してくれた。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/400秒 ISO100 AWB RAW ナイトマーケットはたくさんの屋台が路上に並ぶ。店先の春巻きにピントを合わせる。揺らぐようにボケる背景がおもしろい。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/30秒 -0.7EV ISO100 AWB RAW 何やら工場のように見えるが、実は市場併設のフードコートだ。店内照明が少なく、開放F1.4の出番だ。

クセ玉は常に描写が暴れるわけではない。絞りによって描写をコントロールできる。特にKistarシリーズは、1~2段絞るだけで落ち着いた描写になるのが特徴だ。どんなシーンに持ち出しても、クセのある描写と端正な描写、双方を思い通りに使い分けできる。Kistarの個性は、誰もが手軽に我が物にできるのだ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F2 1/30秒 ISO160 AWB RAW 旧市街の中心地にあるマーケットを見てまわる。色彩豊かな衣料品がところ狭しと並んでいた。Kistarはシングルコートだが、発色は良好だ。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F2 1/30秒 -0.7EV ISO125 AWB RAW 裏通りにまわると、ひとけの少ないマーケットを見つけた。どの通りも光にあふれている。

α7III + Kistar 35mm F1.4 絞り優先AE F2.8 1/60秒 +0.7EV ISO100 AWB RAW ホイアンのランタンは派手なものが多いが、めずらしくシンプルなものを発見。F2.8まで絞って端正な雰囲気に捉えた。

 

Kistar 35mm F1.4


Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。

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