写真・文=澤村 徹
大口径レンズは大きなボケにとかく注目が集まりがちだ。しかしながら、実はもうひとつアドバンテージがある。それは暗所撮影だ。大口径レンズはより多くの光を集めることができ、暗所でも速いシャッタースピードで撮影できる。開放F1.2のキスター55ミリF1.2にとって、夜スナップは得意技というわけだ。
そこで夜の香港をキスター55ミリF1.2でスナップしてみた。絞りは開放F1.2のまま、夜の香港を歩く。看板や屋台の灯りが彩りとなり、被写体探しには事欠かない。開放F1.2の状態なら、ISO100のまま1/60秒程度をキープし、高画質を保ったまま手持ち撮影が可能だ。暗所撮影は画質を犠牲にすることが多いが、開放F1.2の本レンズならそうした心配は無用。高画質な夜スナップを存分に楽しめる。
開放のキスター55ミリF1.2はほんのりと滲みを伴う。ただし、ソフトフォーカスのように過剰に滲むわけではない。ストリートの灯りを柔らかく捉え、結果として艶やかさが増す。意図的に残された開放での収差が、夜のストリートの妖しさを上手に描いてくれる。
通常、大口径レンズの開放はピント合わせがシビアだ。ただし、ストリートスナップでは中遠距離にピントを合わせることが多く、このような場合はそれなりに被写界深度が稼げる。開放F1.2でも思ったほどナーバスにならずに済むだろう。キスター55ミリF1.2のような大口径レンズは、やはり開放近辺の描写に妙味がある。開放メインの夜スナップは、本レンズの魅力をたっぷりと実感できる撮影シチュエーションだ。
Kistar 55mm F1.2
Kistar 55mm F1.2は、富岡光学のTominon 55mm F1.2をベースに、木下光学研究所が復刻生産した大口径標準レンズです。当時の設計者の指導の下、開発思想を受け継ぎ、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を再現しました。大口径ならではの透明感のあるレンズを再現するため、当時と同じピッチ研磨でレンズを磨いています。古いカメラは勿論、現代のカメラにもマッチするヤシカコンタックス風の外観を採用し、ヘリコイドはしっとりとした作動感を再現するため、当時と同じ現合ラップ仕上げを用いました。