写真・文=澤村 徹
今回はフォーカルレデューサー経由でKISTARレンズを使ってみたい。何をいきなり……と思うかもしれないが、事の発端はニコン Z fcだ。同機は往年のクラシックカメラをそのままデジタルにしたような佇まいで、コアなカメラユーザーから女性まで幅広い層に好まれている。このニコン Z fcにKISTARレンズを付けて撮りたい。そんなニーズもあるはず。ただ、ちょっと厄介な問題があるのだ。
ニコン Z fcはニコンZマウントなので、マウントアダプターはすでに大手マウントアダプターメーカーからひと通り出揃っている。そのため、KISTARレンズを付けるためのCY-NZマウントアダプターもすぐに手に入るだろう。この点は心配ない。では何が問題なのか? それはニコン Z fcがAPS-C機だからだ。イメージセンサーがAPS-Cサイズだと、レンズの焦点距離が1.5倍になる。たとえば、50ミリレンズなら35ミリ判換算75ミリ相当、35ミリレンズなら35ミリ判換算52.5ミリ相当になるわけだ。要は画角が狭くなる。フルサイズミラーレス全盛の今、焦点距離1.5倍の制約は厳しいところだ。
そこでフォーカルレデューサーの出番だ。フォーカルレデューサーはAPS-C機でフルサイズ撮影できる魔法のアダプターだ。縮小光学系と呼ばれる補正レンズを内蔵し、これによって画角を広げる。ここで取り上げる中一光学のレンズターボIIの場合、焦点距離が0.726倍になる。35ミリレンズを例にとると、35ミリ×1.5倍×0.726倍で35ミリ判換算38ミリ相当になり、APS-C機でフルサイズ相当の撮影が可能だ。また、補正レンズの集光効果により、明るさが一段ほど明るくなるのもメリットだ。
論より証拠、早速実写していこう。今回はKISTAR 35mm F1.4を用いた。そのままニコン Z fcに付けると標準画角になってしまうが、フォーカルレデューサー経由では本来の広角らしさを保って撮影できる。APS-C機でフルサイズ撮影できるアドバンテージは何ものにも代え難い。とはいえ、補正レンズよる画質への影響が気になるところだろう。まず、コントラスト、発色、ボケ味、周辺部の解像力は申し分ない。一般的なスナップで不満を感じることはないだろう。ただし、いくぶん収差が目立つ場面もあった。周辺部に被写体があるとわずかに樽型歪曲収差が目につき、逆光では強めのゴーストが発生することも。その一方で、集光効果によって一段ほど明るくなり、開放F1.4だとハイキー気味に写ることが多かった。少なからず画質に影響があるので、このあたりをうまくハンドリングしながら活用したい。
なお、フォーカルレデューサーはマウントアダプター内部に複数枚で構成されたレンズが組み込まれている。そのため、装着するレンズによっては内部干渉することも。KISTAR 35/55/85ミリで試したところ、KISTAR 55mm F1.2は内部干渉して装着できなかった。フォーカルレデューサー側のレンズとKISTAR 55mm F1.2の後玉がダイレクトに接触する。とてもリスキーな状態だ。ちなみに、レンズターボIIは内蔵レンズの固定位置を調整し、内部干渉の回避が可能。ただ、この調整を行うと、無限遠が出ないこともある。
KISTARレンズとフォーカルレデューサーのコラボレーション、いかがだっただろうか。補正レンズを介するためKISTARレンズ本来の画質とは言えないが、画角に関してはニコン Z fcでフルサイズ相当の撮影ができた。また、ニコンZマウントだけでなく、富士フイルムXマウント用のフォーカルレデューサーもある。APS-C機でKISTARレンズを使いたいという人には魅力的なセットアップだ。
Kistar 35mm F1.4
Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。