写真・文=澤村 徹
昨年の秋から紹介してきたKISTAR 28mm F3.2 M、来る2025年6月20日に発売が決まった。これまでプロトタイプで本製品を解説してきたが、製品版であらためてアウトラインと描写を紹介していこう。
KISTAR 28mm F3.2 Mは開放で滲む広角レンズだ。広角で滲むレンズは珍しく、フィルム時代のオールドレンズでも開放からシャープに写るものが大半だ。しかも大口径タイプではなく、開放F3.2で鏡胴もコンパクト。滲む広角を気負わずに堪能できるレンズである。

レンズ構成は4群6枚。絞り羽根は6枚だ。フィルター径は46mmを採用する。鏡胴のカラーはシルバーのみ。

ピントリングに黒いフォーカシングレバーを装備する。ここに指をかけてピント操作すると、往年のMFレンズを使っているような気分になる。
滲みのテイストはKISTAR 40mm F2.4 Mと同じ傾向で、開放で柔らかく、軽く絞ると中心部からシャープになる。実写したところ、F4で中心がシャープになり、F11まで絞ると周辺まで完全に結像する。広角レンズゆえに風景撮影に持ち出されることを想定し、ちゃんとシャープにも撮れる仕様だ。

距離計連動は0.7mまでだが、レンズ自体の最短撮影距離は0.5mだ。ライブビューに切り換えて広角マクロ撮影が楽しめる。

KLMマウントを採用し、M型レンジファインダーカメラで距離計連動する。距離計連動精度も申し分ない。

右が製品版のKISTAR 28mm F3.2 M、左はプロトタイプだ。プロトタイプでは絞りリングとピントリングが密接していたが、製品版では間隔をとって操作しやすくなった。
なお、レンズ自体は製品版と試作品で変わりはない。試作品で撮った作例も製品版相当の描写と考えてもらって支障はない。
試作品では絞りリングとピントリングが密接していたが、製品版ではリングの間隔に余裕を持たせ、各リングを操作しやすくなった。製品版の鏡胴では、ピントリングと絞りリングをそれぞれ的確に操作できる。距離計連動は0.7mまでだが、ピントリング自体は0.5mまで回る。ライブビューを使うことでより近接で撮影できる。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/800秒 +0.67EV ISO64 AWB RAW 背の高いオブジェが柔らかく滲む。周辺歪曲はあまり感じられない。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/2500秒 ISO64 AWB RAW 出航するフェリーを捉える。開放では滲みに加え、周辺光量落ちも興を添える。
今回の作例は夕方のスナップだ。KISTAR 28mm F3.2 Mは開放がF3.2とやや暗めだが、日が傾いた状態で実用できるか確かめてみた。5月のGW前の17時台に撮影し、多くの場面でカメラ側のベースISO感度のまま手持ち可能なシャッタースピードで撮影できた。レンズの開放F値でナーバスになる必要はないだろう。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/640秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 釣り人にピントを合わせる。遠くのフェリーがフワッと滲む。開放は柔らかいが、コントラストまで甘いわけではない。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1000秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW オブジェ越しに夕日を狙う。海に反射するオレンジの光が柔らかく、そして美しい。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/125秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW 外灯がやさしい光を夕闇に拡散する。このレンズは何を写しても絵になる。
最近は中国製レンズや復刻レンズなど、様々な単焦点レンズが市場にあふれている。そうは言っても、開放でここまでわかりやすく滲む広角レンズは珍しい。唯一無二の個性、KISTAR 28mm F3.2 Mにはそれがある。
KISTAR 28mm F3.2 M
開放はF3.2とやや暗めながら、大口径タイプのようにソフトな描写が持ち味です。絞るほどに中心から周辺にかけてシャープな領域が広がり、F11でほぼ全域にわたって結像します。KLMマウントを採用し、M型レンジファインダーカメラで0.7mまで距離計連動が可能。ライブビューであれば0.5mまで近接撮影できます。