Kistar the other side 第61回
5本のKISTARが奏でるベストショット集

写真・文=澤村 徹

 

本コーナーは年に6回更新している。気づけば2025年最後の更新で60回目、連載10周年だった。ファーストレンズのKISTAR 55mm F1.2が登場してから10年で、広角、標準、中望遠と、全5本のラインアップに成長した。そこで今回は、KISTARレンズ5本のベストショットを選んでみた。過去10年分の掲載カットと次候補カットを見返し、そのなかからレンズごとにベストショットを選出。その写真を解説しながら各レンズの個性をあらためて紐解いていこう。

 

KISTAR 55mm F1.2
レジェンドレンズを正統復刻

KISTAR 55mm F1.2は2015年9月に登場。富岡光学のTominon 55mmF1.2を、現代の技術で甦らせたレンズだ。

α7 II + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/8000秒 ISO100 AWB RAW 中間距離で背景を大きくボカす。これが大口径標準レンズのアドバンテージだ。

α7R II + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/60秒 ISO100 AWB RAW 開放で暗所撮影。大口径なので低ノイズを保てる。

KISTARシリーズのファーストモデル、KISTAR 55mm F1.2は2015年9月に登場した。オールドレンズの銘玉と名高い、富岡光学のTominon 55mmF1.2を現代の技術で復刻したレンズだ。木下光学研究所は富岡光学の元社員が立ち上げた会社で、関係者にはTominon 55mmF1.2はもちろん、Yashica/CONTAXのツァイスレンズの設計に携わった者が少なくない。単に往年のレンズを復刻したのではなく、当時の技術者の言葉を継承しながら、現代の技術でTominon 55mm F1.2を復刻したのだ。いわば正統後継者というスタンスが、昨今の復刻レンズブームと一線を画している。

1枚目のカットは中間距離で僧侶をとらえたもの。中間距離で背景をボカす撮り方は、大口径標準レンズの十八番。レンズのおいしいところをうまく活かせたカットだと思う。2枚目は香港のネオンを開放F1.2で撮影。ネオンの光がわずかに滲み、ざわつく後ボケと相まって奥行き感を演出できた。最近の香港はこの手のネオンの撤去が進み、記録としても貴重な写真といえるだろう。

 

KISTAR 35mm F1.4
高機能であえて緩い写りを狙う

KISTAR 35mm F1.4は2016年12月に登場。フローティング機構、非球面レンズといった現代的な技術を使いつつ、昭和レトロな写りを実現した。

Leica M Typ240 + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/4000秒 +0.66EV ISO200 AWB RAW 明るいピンクの河津桜を開放で撮影。

α7 II + KISTAR 35mm F1.4 絞り優先AE F5.6 1/60秒 -0.7EV ISO200 AWB RAW 薄暗いシャドウの描き方に妙味がある。

KISTARシリーズ第2弾となるKISTAR 35mm F1.4は、特定のレンズをオマージュするのではなく、「昭和の懐かしい写りを現代の技術で再現する」という方向性で新規設計されたレンズだ。事実上、木下光学研究所のコンシューマ向けオリジナルレンズ第1弾である。写りは「開放で柔らかく、絞るほどにシャープさが増す」というオールドレンズライクなもの。ただし、フローティング機構と非球面レンズを採用し、最短から無限遠まで安定した写りを実現している。現ラインアップのなかでもっともマニアックな作りだ。

1枚目の河津桜は、それこそKISTAR 35mm F1.4のための被写体といったところ。開放の滲みで桜の花が軽さと厚みを増し、見た目以上に華やかに写る。2枚目はKISTAR 35mm F1.4のシャープさを見せつけるカットだ。開放は柔らかいけど、絞ると実に切れ味がいい。シャドウのちょっと怪しげな雰囲気にも惹かれる。高機能で甘い写りを作るという酔狂がたまらなくいい。

 

KISTAR 85mm F1.4
クセを抑えたポートレートレンズ

本レンズは2017年12月に登場。オーソドックスなダブルガウス型の大口径中望遠レンズだ。

α7 II + KISTAR 85mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/500秒 +2EV ISO100 AWB RAW 逆光でフレアとゴーストを写し込み、ポートレートに花を添える。

α7 II + KISTAR 85mm F1.4 絞り優先AE F1.4 1/500秒 ISO100 AWB RAW 周辺部でも開放からしっかり解像する。

シリーズ第3弾は大口径中望遠だった。KISTAR 85mm F1.4は2017年12月に登場し、ポートレート撮影向けにクセを抑えた描写特性になっている。ホビーとしてのポートレート撮影は、やはり女性を被写体にすることが多いだろう。そうした実用シーンに考慮し、開放は柔らかく、しかし像が乱れないように、と絶妙なラインを攻めている。KISTARシリーズのなかで一番クセが少なく、安定した写りのレンズだ。

1枚目は開放で撮ったポートレートだ。クセが少ないとはいったが、そこはKISTARシリーズ、フレアとゴーストはしっかり出てくれる。また、シングルコートのため、色味が派手になりすぎない。2枚目はいわゆるスナップショットだ。開放で撮っているが、クセがあまりないため背景を把握しやすい。オールドレンズの中望遠はクセ玉が多いが、KISTAR 85mm F1.4はクセと高描写のバランスがとれたレンズだ。

 

KISTAR 40mm F2.4 / M
滲むテッサーという意外性

滲み玉で、しかも40mmというマニアックな仕様。本レンズからミラーレスマウントを採用した。

α7R IV + KISTAR 40mm F2.4 絞り優先AE F2.4 1/1600秒 ISO100 AWB RAW 固い岩さえ柔らかく見える。これが滲み玉マジック。

KISTAR 40mm F2.4 Mは距離計連動可能なKLMマウントを採用。レンズ自体はKISTAR 40mm F2.4と同じ滲み玉だ。

Leica M10 + KISTAR 40mm F2.4 M 絞り優先AE F2.4 1/4000秒 ISO200 AWB RAW 滲みのある写真をモノクロ化すると、一気にノスタルジックな雰囲気が増す。

2020年11月、ターニングポイントとなるKISTAR 40mm F2.4が登場する。これまでKCYマウント(ヤシコン互換マウント)を採用していたKISTARシリーズだが、本レンズからソニーEおよび富士フイルムXといったミラーレス用マウントに変わった。マウントアダプター不要でミラーレス機に装着でき、40mmパンケーキレンズの薄さを存分に満喫できる。さらに2022年7月にはMマウント互換のKLMマウントを採用したKISTAR 40mm F2.4 Mが登場。滲み玉かつ40mmというマニアックなレンズが、距離計連動で使えるようになった。

KISTAR 40mm F2.4は3群4枚のテッサー型だ。一般に、テッサー型のレンズは開放F2.8が多い。本レンズは開放をF2.4まで明るくし、そのぶん大きな滲みを生み出している。テッサーはシャープに写るレンズの代名詞だが、それを逆手に取り、滲むテッサーを作り出したわけだ。

1枚目は柱状節理群と呼ばれる岩場をKISTAR 40mm F2.4で撮影した。岩が柔らかく写るという違和感が新鮮だ。2枚目はモノクロモードで撮影したもの。この滲みのある写りとモノクロの相性は抜群だ。オールドレンズと違ってKISTAR 40mm F2.4のコントラスト自体はしっかりしている。滲むのに甘くなりすぎない様子が、モノクロ化するとよく伝わってくる。ここにKISTAR 40mm F2.4の強みがあると思う。

 

KISTAR 28mm F3.2 / M
ありそうでなかった滲む広角

滲む広角として2025年6月に登場。ファーストロットは即完売という人気レンズだ。

滲む広角として2025年6月に登場。ファーストロットは即完売という人気レンズだ。

2026年1月20日に発売となるミラーレス用のKISTAR 28mm F3.2。ソニーEと富士フイルムXを用意する。

α7 IV + KISTAR 28mm F3.2 絞り優先AE F3.2 1/1250秒 ISO100 AWB RAW 開放だと周辺にいくほどシャープネスが甘くなる。

稀有な滲む広角レンズは、Mマウント互換のKISTAR 28mm F3.2 Mから登場した。前述のKISTAR 40mm F2.4 Mが好評で、それを受けてKLMマウント版からの発売である。実のところ、オールドレンズでも滲む広角はきわめて珍しく、いわば「ありそうでなかった」レンズだ。2026年1月20日にはミラーレス用としてソニーEと富士フイルムXにそれぞれ対応したKISTAR 28mm F3.2が発売となる。滲みは大口径レンズを開放で使った際によく発生するが、このレンズはF3.2というやや暗めの開放値だ。そのため晴天下の風景撮影でも、開放で滲みを満喫できる。

1枚目は高台から岬を開放撮影したものだ。モノクロ化して滲みが霧のように感じられる点が気に入っている。2枚目は古民家を開放撮影したもの。ピント位置は二軒の隙間から見える造船所だ。周辺に行くほど写りが甘くなり、このレンズの特徴がよくわかる。ちなみに、F11以降まで絞れば周辺までシャープになる。

こうしてKISTARシリーズを俯瞰すると、復刻からはじまり、昭和レトロ、滲み玉へ、少しずつテイストを変えて展開してきたことが見てとれる。十年という時間をかけ、木下光学研究所はレンズ設計という切り口で“写りの快感”を表現してきた。10年という節目にあらためて、KISTARレンズの個性に注目してほしい。

 

参考リンク : KISTAR LENS

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