Kistar the other side 第63回 元祖KISTAR 55mm F1.2の再販はじまる!


写真・文=澤村 徹


KISTARレンズのファーストプロダクトは、2015年秋に登場したKISTAR 55mm F1.2だ。富岡光学の銘玉、Tominon 55mm F1.2を復刻したレンズで、発売と同時にレンズ好きの間で話題になった。ここしばらく在庫切れしていた本レンズが、今夏ついに再販がはじまった。本稿ではそんなKISTAR 55mm F1.2の魅力を改めて紹介しよう。

昨今、オマージュレンズなるものが流行っているが、KISTAR 55mm F1.2はそれらとは一線を画す。言うなれば正統派復刻レンズだ。ただ単にTominon 55mm F1.2のレンズ構成や鏡胴を再現したわけではない。KISTARレンズを手がける木下光学研究所は、富岡光学の元社員が興した会社だ。Tominon 55mm F1.2の設計思想について、実際に作業に携わった者からヒアリングを行い、この復刻プロジェクトをスタートしている。

いわばKISTAR 55mm F1.2は、富岡光学のDNAを受け継いだ復刻レンズなのだ。


KISTAR 55mm F1.2はKCYマウントを採用。マウント形状はヤシコンマウントと互換性があり、マウントアダプターを経由して様々なデジタルカメラで使用できる。

今回はデジタルM型ライカに装着した。マウントアダプターはRayqualのCY-LMを使用。距離計連動はしないが、ライブビューで撮影できる。


描写をひと言でいうと、昭和を彷彿とさせるやさしい写りだ。開放でほのかに滲み、絞るほどに滲みが消えてシャープな像が現れる。もちろん、開放では大きなボケが生まれ、ほどよくザワつきもある。新品で買えるオールドレンズ、と考えておけばまちがいないだろう。2015年という平成の世に、レトロテイストのレンズが新製品として登場したことに驚く。さらに10年以上も前にオマージュレンズブームを先取りしていたと考えれば、木下光学研究所の先見性も見てとれるはずだ。


Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/6400秒 ISO64 AWB RAW 夕日が山かげに隠れた瞬間をとらえる。夕日を映した波が前ボケと化し、海と山の距離感を強調する。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/6400秒 ISO64 AWB RAW わずかに色づいた雲を、ていねいに写しとる。階段を上がってきたカップルが、踏切といっしょに大きくボケる。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/180秒 -1.33EV ISO64 AWB RAW 日の入り後の薄暗い海をフェリーの明かりが行く。露出補正をアンダーにふり、暗がりを暗がりとして撮影した。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/80秒 -0.67EV ISO80 AWB RAW 駅に近づくと電車が入ってきた。走れば間に合うが、写真を撮ると乗れなくなる。車窓の明るさが美しく、撮影を優先してしまった。


せっかくの大口径レンズ、暗所撮影からセレクトしてみた。開放F1.2なら、ISO感度を上げずにシャッタースピードを稼げる。KISTAR 55mm F1.2の性能面のアドバンテージを実感できる部分だ。暗がりのなかで淡い光と大きなボケが浮遊する姿は、KISTAR 55mm F1.2ならではの写りだろう。暗所で使ったときの大口径レンズは、本当にいい仕事をすることが多い。


Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/3000秒 ISO64 AWB RAW ブロック塀からバラがあふれていた。この場所は以前、Planar T* 50mmF1.4で撮った記憶がある。繊細さはPlanarに譲るが、KISTAR 55mm F1.2の荒々しさが粗野なバラの雰囲気をうまく表していると感じた。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/4000秒 ISO64 AWB RAW 本レンズはシングルコートだが、現代のレンズだけあって発色に古臭さはない。ビビッドとは言えないが、被写体の色を誇張なく再現してくれる。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/6400秒 -0.67EV ISO64 AWB RAW クレーン台の錆に惹かれて撮影した。錆についてはもっと色褪せた写りでもいいかなと、贅沢な文句をつけたくなる。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/1250秒 ISO64 AWB RAW 開放だと、周辺部のピント合わせはちょっと怪しい感じに。そのあたりを御してこそのKISTAR使いだろう。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/8000秒 ISO64 AWB RAW 船溜まりをスナップしてまわる。船の全身を撮りたいなら広角が便利だが、標準画角で積極的に切り取るのも楽しい。開放の周辺減光が興を添える。

Leica M EV1 + KISTAR 55mm F1.2 絞り優先AE F1.2 1/12000秒 ISO64 AWB RAW 小さなこいのぼりを開放撮影した。想定した以上にボケが大きく、クセ玉の気配が伝わってくる。


一方、日中のスナップだと、開放F1.2のレンズはちょっと厄介だ。シャッター速度1/8000秒でも、屋外晴天では露出オーバーしかねない。NDフィルターをつけるか、それとも装着せずにハイキーのまま貫くか、実に悩ましい。幸いなことに、昨今は電子シャッターでもっと高速なシャッターが切れる。機種に依存するものの、電子シャッター特有のローリングシャッター歪みもだいぶ軽減されている。今回の撮影の場合、1/4000秒以上のカットは電子シャッターによる撮影だ。どれもNDフィルターは使っていない。また、このLeica M EV1はベース感度ISO64と低いため、大口径レンズを扱いやすい。

KISTAR 55mm F1.2が登場した2015年と比べ、大口径レンズを扱いやすい時代になった。再び“新品で買えるオールドレンズ”となった本レンズを、時代の変遷ごと味わうのも一興だろう。


製品リンク:KISTAR 55mm F1.2