写真・文=澤村 徹
木下光学研究所Kistarシリーズ第3弾、Kistar 85mm F1.4がついに発売になった。大口径中望遠レンズは、ポートレートレンズと呼ばれることが多い。画角的にポートレート撮影に適しているため、そのように呼ばれるのだが、もちろん中望遠=ポートレート専用というわけではない。このレンズを試用して約4ヶ月、様々なシーンで卓越した描写で楽しんできた。そこで今回は、Kistar 85mm F1.4のオールラウンダーぶりを紹介しよう。
まずはポートレートからだ。Kistar 85mm F1.4はやわらかい開放が特徴だ。これは女性ポートレートで特に役に立つ。女性らしさを引き出したいとき、このやわらかい開放が功を奏してくれる。とは言え、ジャスピンではけっして滲むようなことはなく、ディテールを繊細に捉えてくれる。この絶妙なシャープネスがKistar 85mm F1.4の魅力だ。やわらかさとシャープさはそもそも相反するものだが、それを両立したような写りがスリリングである。
Kistar 85mm F1.4は最短80cmまで寄れる。焦点距離85mmのレンズとしては比較的寄れる部類だ。この特徴を活かし、花を撮ってみた。マクロレンズのように寄れるわけではないが、花一輪を主役として捉えられる程度にはクローズアップできる。特に最短開放で撮影すると、極浅の被写界深度のおかげでどことなく幻想的だ。中望遠の近接は、マクロレンズや標準レンズのクローズアップとはまた異なった世界を見せてくれる。
最後はストリートスナップだ。中望遠レンズとストリート。ちょっと意外に思えるかもしれないが、この組み合わせはけっこう使いやすい。街中で目に付いたものをピンポイントで切り取れるため、印象的なカットが撮れるのだ。Kistar 85mm F1.4は開放F1.4と明るく、夜のストリートもお手のもの。歪曲が少ないこともあり、パースを付けずに街の様子を捉えられる点もよい。
ポートレートとセットで語られることの多い大口径中望遠レンズだが、実際にはオールラウンダーとしての側面もある。ポートレートという固定観念に囚われることなく、Kistar 85mm F1.4を様々なシーンで使ってみてほしい。自然なシャープネス、ていねいなトーン、そして大口径ならではの大きなボケが、目にしたものを印象的に切り取ってくれるはずだ。
Kistar 85mm F1.4
Kistar 85mm F1.4は、木下光学研究所オリジナル設計による大口径中望遠レンズです。トラディッショナルなダブルガウス型を採用し、ナチュラルテイストのポートレート撮影を実現します。絞り込んでも繊細なタッチを宿し、過度に硬くならず、あくまでも自然な解像感を重視しました。オールドレンズテイストを宿しつつ、高描写を目指した大口径中望遠レンズです。