写真・文=澤村 徹
これまでフルサイズミラーレスはソニーα7シリーズの独壇場だった。事実、大手カメラ量販店の人気ランキングは、α7IIIが長らくトップをキープしていた。Kistarレンズを使っている諸氏も、α7シリーズで撮っている人が少なくないだろう。
そんなフルサイズミラーレスだが、ここにきて大きな動きがあった。シグマfpの登場である。本機はシグマ初のフルサイズミラーレスで、極限までシンプルに徹したコンパクト機だ。本年10月に登場するや否や、先の人気ランキングでα7IIIを抜いてトップに躍り出た。今回はこのシグマfpにKistarレンズを付けて撮影してみた。
シグマfpはライカLマウントを採用したミラーレス機だ。ライカLマウントはそもそもライカSLが採用していたマウントで、すでに各社から一通りのマウントアダプターが出揃っている。Kistarレンズを付ける場合は、ヤシコン-ライカLマウントアダプターを介して装着しよう。絞り優先AEの実絞りで撮影できる。
マウントアダプター経由での操作性は特に問題ない。スピーディーに拡大表示でき、ISOオートもシャッタースピードの下限を設定可能だ。ただし、光学式手ブレ補正を搭載していないので、微ブレには十分注意して撮影したいところだ。
コンパクトフルサイズ機ということもあり、Kistarレンズとのバランスが気になる。ここではあえて一番大きなKistar 85mm F1.4を合わせてみた。アンバランスになるかと思いきや、違和感なく収まっている。85mm F1.4でこのサイズ感なら、55mm F1.2や35mm F1.4もスマートに装着できるだろう。ただし、フロントヘビーになる点は否めないため、シグマ純正オプションのハンドグリップは必須と考えた方がいい。これを付けるだけで左手のピント操作や絞り制御が格段に快適になる。
画質を見ていこう。ここではRAWデータをLightroomでストレート現像したものを掲載している。約2,460万画素モデルだけあって、Kistarレンズの穏やかなテイストをていねいにくみ取ってくれた。開放の柔らかさ、絞った時の締まりの良さ。あらゆる状態でレンズの持ち味をしっかりと伝えてくれる。状況によってやや青みが強いこともあったが、これはオートホワイトバランスのクセだろう。ただ、RAW現像で問題なく調整できる程度だ。
今回は晩秋の街並みをスナップした。85mmという画角を活かし、街のディテールを狙い澄まして切り取る。SIGMA fpはEVFを搭載していないが、Kistar 85mm F1.4はピントの山がつかみやすく、液晶上の拡大表示で的確にピント合わせできた。EVF未搭載はミラーレス機にとってウィークポイントだが、本レンズとの組み合わせに関してはけっして足かせにはならないようだ。
昨今、カメラメーカー各社からフルサイズミラーレスが登場し、Kistarレンズを楽しめる機種が格段に増えた。昭和のレンズをコンセプトにしたKistarレンズは、あえて適度に収差が残してある。その収差を最も味わえるのが周辺部だ。シャープな中心部とわずかに甘い周辺部、レトロな周辺光量落ち、穏やかなコントラスト。周辺までしっかり写るフルサイズ機だからこそ、Kistarレンズの描写を存分に楽しめるわけだ。
Kistar 85mm F1.4
Kistar 85mm F1.4は、木下光学研究所オリジナル設計による大口径中望遠レンズです。トラディッショナルなダブルガウス型を採用し、ナチュラルテイストのポートレート撮影を実現します。絞り込んでも繊細なタッチを宿し、過度に硬くならず、あくまでも自然な解像感を重視しました。オールドレンズテイストを宿しつつ、高描写を目指した大口径中望遠レンズです。