写真・文=澤村 徹
ついにKISTAR 28mm F3.2 Mがその姿を現した。KISTARシリーズ初の本格的な広角レンズだ。今回、同レンズの試作品を借りることができたので、外観や描写を早速見ていきたい。
まず、新レンズのKISTAR 28mm F3.2 Mは、KISTAR 40mm F2.4のあのソフトな写りをそのまま継承している。開放で容赦なく滲み、絞ると中心部からシャープに。あの写りを広角28mmで実現した。これまでのレンズをふり返っても、広角レンズでこれだけの滲みをともなう製品はちょっと思い当たらない。まさに唯一無二の写りを備えたレンズだ。
真鍮鏡胴に高品位なシルバーを塗装する。色味は40mm F2.4と同じだ。この試作品は絞りリングとピントリングの間隔が狭いが、製品版ではこの間隔を広げ、操作しやすいデザインに改良するという。
製品版の設計図だ。絞りリングとピントリングの間隔が広めになっている。これにより、絞り操作中にピントリングに触れる心配が軽減するという。実践的なブラッシュアップだ。
本レンズは距離計連動可能なKLMマウント(ライカM互換マウント)を採用し、M型ライカをはじめ、マウントアダプター経由でミラーレスにも装着可能だ。同時にソニーE、富士フイルムXといったミラーレス用マウントも開発しているという。ライカユーザーだけでなく、ミラーレスユーザーも視野に入れた製品展開だ。
外観は40mm F2.4と同じシルバーで、28mm F3.2のほうが若干全長が長い。そうはいってもコンパクトな鏡胴だから、スナップレンズとしてカメラに付けっぱなしにしても苦にならないだろう。フォーカシングレバーを搭載し、往年のレンジファインダースタイルを実現する。この試作品はフォーカシングレバーが黒いが、製品版では鏡胴と同じシルバーになるかもしれない。
試作レンズのフォーカシングレバーは、シルバーとブラック、2色用意されていた。製品版でも2色展開になるのか、どちらか片方なのか、まだ未定だという。個人的にはここが黒いと黒ボディにも似合うから良き、などと思ってしまう。
ライカM互換マウントを採用。真鍮のヘリコイドが気分を高めてくれる。ライカM11で試写したところ、無限遠から近接まで特に問題なく距離計連動した。距離計連動は0.7mまでだが、ピントリング自体は最短0.5mまで回る。
左がKISTAR 28mm F3.2 M、右はKISTAR 40mm F2.4 Mだ。共通のルックアンドフィールで、2本携えて撮影に出るのが楽しそう。サイズ自体は28mmのほうが大きい。
写りについては前述の通り、開放のソフトな描写が特徴的だ。ただし、広角レンズということもあり、シャープネスにも気をつかっている。F4に絞った瞬間に中心部の滲みが消え、急激にシャープな像が現れる。絞るほどにシャープな領域が周辺に広がり、F11で隅々までシャープな写りになる。ちなみに、40mm F2.4は絞り切っても周辺には甘さが残っていた。広角28mmということであえて周辺部の解像力を上げてきたのだ。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/125秒 ISO64 AWB RAW お店のスターマークにピントを合わせた。開放の柔らかい滲みが画像全体を覆う。画像をリサイズした状態でもしっかりと滲みを感じることができる。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/125秒 ISO64 AWB RAW 整然とした構図を開放でソフトに捉える。こうしたギャップのある写りを楽しめるのはこのレンズの特権だ。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F4 1/80秒 ISO400 AWB RAW 近接でF4まで絞って撮影した。中心部の滲みが消えてシャープに写る。周辺部がシネレンズのように怪しげな写りだ。
このレンズのおもしろいところは、大口径で開放が滲むのではなく、F3.2というややもすれば暗めのスペックで滲む点だ。おかげで真夏の晴天下でも開放のやさしい写りを満喫できる。暗所では高感度撮影になるが、ソフトなのにノイズがのるというこれまた珍しい写りになる。シャッターを切るだけで独自性を発揮する、正真正銘の個性派レンズだ。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F11 1/400秒 ISO64 AWB RAW F11まで絞ると隅々まで結像する。あえて収差を残したレンズとは言え、広角レンズとしての使い勝手を犠牲にしないところがいい。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/80秒 ISO125 AWB RAW 開放F3.2なので、暗所だとシャッター速度が落ち、ISO感度が上がってしまう。そうは言っても、いまどきのデジタルカメラは高感度でもノイズは少ない。さしてデメリットに感じることもあるまい。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/80秒 -0.67EV ISO160 AWB RAW 最短の0.5mで撮影した。距離計連動の最短撮影距離は0.7mなので、ライブビューで撮っている。わずかに歪曲を感じる。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/320秒 ISO64 AWB RAW 逆光でフレアとゴーストを出してみた。絞るほどにフレアが強く出るタイプだ。いいアクセントになる。
Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F5.6 1/640秒 ISO64 AWB RAW F5.6まで絞り、アンダーに撮ってみた。開放は柔らかい描写だが、絞り込めば硬派な写りもこなす。