Kistar the other side 第64回 滲み玉2本で旅を撮る


写真・文=澤村 徹


滲み玉は、ここ一番、で使うことが多い。常用レンズというよりも、ポートレートや花など、柔らかく撮りたいときに持ち出す。そんな使い方をする人が多いのではないか。では、滲み玉をあえて終日使い続けたらどんな写真が撮れるだろう。

そこで今回は、KISTAR 28mm F3.2 MとKISTAR 40mm F2.4 Mの2本で、秋の函館へ撮影旅行に出ることにした。寝ても覚めても、雨が降っても槍が降っても、滲み玉尽しの撮影旅である。

カメラはLeica M11とLeica M EV1を用意した。どちらのレンズも距離計連動可能なKLMマウントだ。Leica M11のようなレンジファインダー機なら、テンポよくスナップが楽しめる。そもそも両レンズはジャスピンからわずかに外れたところで滲みがいっそう強調される。レンジファインダー機でざっくり撮ればより滲みを満喫できるだろう。

一方、Leica M EV1は見た目こそレンジファインダー機風だが、構造的にはライブビューカメラだ。要はミラーレスと同じフィーリングでの撮影となる。ライブビューで画角はもちろん、滲みやボケの様子も隅々まで確認でき、写りを思いどおりにコントロールできる。そんなタイプの異なるカメラを携え、KISTAR 28mm F3.2 MとKISTAR 40mm F2.4 Mで旅してみた。

KISTAR 28mm F3.2 MをLeica M EV1に装着。滲む広角レンズは撮影旅でどんな表情を見せてくれるのか。


まずはKISTAR 28mm F3.2 Mから見ていこう。撮影旅における28mmレンズは、目の前の光景を素のままとらえる役割を担う。KISTAR 28mm F3.2 Mの場合、F3.2と開放からそれなりに被写界深度があるので、遠景がメインならピントリングを無限遠にセットしたまま気になる光景を切り取っていけばいい。それだけで、対象をやわらかくとらえてくれる。いっそ外付けファインダーで撮ってもいい、そんな気分になる。

KISTAR 28mm F3.2 Mはソフトフォーカスのように派手に滲むのではなく、極限まで薄くしたヴェールをまとったような写りだ。色彩を表現する言葉に記憶色というものがあるが、旅先で撮ったKISTAR 28mm F3.2 Mの写真は、さながら記憶光と言ったところか。うっすらと光の拡散する様子が、撮った光景をすぐさま思い出に変える、そんな気がするのだ。


Leica M EV1 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1250秒 ISO64 AWB RAW 造船所の近くにある赤れんがの倉庫。取り壊すというニュースを耳にしたが、まだ半分ほど残っていた。携帯電話の電波塔の影が、赤れんが上で怪しく滲む。

Leica M EV1 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/2000秒 ISO64 AWB RAW イカ釣り漁船がたくさん停泊している漁港にて。強い西日で船体が白く滲む。

Leica M EV1 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/500秒 ISO64 AWB RAW 海岸の突端にある絶壁。紅葉のハイシーズンにはきれいに色づくのだが、まだ早かったようだ。それでもKISTARのほのかな滲みが彩りと化す。

Leica M11 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/5000秒 ISO64 AWB RAW 真逆光で西日をとらえる。一般的なレンズだとほぼシルエットと化すシーンだが、KISTAR 28mm F3.2 Mでは影の奥にディテールが見える。滲むハイライトもいい味わいだ。

Leica M EV1 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/2500秒 ISO64 AWB RAW 白い船体が滲みをともない、青い湾を横断する。KISTARを使うと、展望台からのありふれた写真もひと味違う。

Leica M EV1 + KISTAR 28mm F3.2 M 絞り優先AE F3.2 1/1250秒 ISO64 AWB RAW 滲みもさることながら、像が周辺に引っ張られる独自の緊張感がある。岬の強風を具現化したような写りだ。

一方、KISTAR 40mm F2.4 Mはボケを活かした表現が可能だ。しかもボケと滲みを一画面に収めることができる。KISTAR 28mm F3.2 Mとは対照的な写りだ。滲み玉2本の撮影旅とはいえ、ちゃんと使い分けながら旅を記録できる。

ひとつ懸念をあげるとすれば、ファインダーの見え方だろうか。レンジファインダー機にKISTAR 40mm F2.4 Mを付けた場合、ブライトフレームは50mmが表示される。つまり、実際の撮影ではフレーム枠よりもひとまわり広いエリアが写るのだ。ライブビューに慣れていると、このちょっとした撮影領域の差が気になるかもしれない。ただ、これはすぐに慣れてしまう。人の感覚はよくできたもので、「50mmの枠よりちょっと広く写る」と意識するだけでいい。40mmは気を抜くと画面が散漫になりがちだが、ほんの少し気をつかうだけで構図が引き締まる。


KISTAR 40mm F2.4 MをLeica M11に装着。ライブビューでも撮れるが、せっかくなのでレンジファインダーで撮りたい組み合わせだ。

Leica M11 + KISTAR 40mm F2.4 M 絞り優先AE F2.4 1/2000秒 ISO64 AWB RAW 海辺のブイに寄って後ボケを出す。ブイを取り巻く滲みと後ボケが合わさり、このレンズならではの写りを生み出す。

Leica M11 + KISTAR 40mm F2.4 M 絞り優先AE F2.4 1/4000秒 ISO64 AWB RAW 白い流木にピントを合わせ、遠景をわずかにボカす。波打ち際の強い印象を、滲みとボケが甘く包み込む。

Leica M11 + KISTAR 40mm F2.4 M 絞り優先AE F2.4 1/6400秒 ISO64 AWB RAW コンクリート工場のパイプラインを開放でとらえる。海鳥の群れが近づいたところでシャッターを切った。画面中の滲みのせいか、まるで像が気化するようだ。

Leica M EV1 + KISTAR 40mm F2.4 M 絞り優先AE F2.4 1/1500秒 +0.67EV ISO64 AWB RAW イカ釣り漁船の向こうに大型クルーズ船が停泊していた。イカ釣り漁船が前ボケと化し、そこに本レンズ固有の滲みが加わる。

Leica M EV1 + KISTAR 40mm F2.4 M 絞り優先AE F2.4 1/5000秒 +0.67EV ISO64 AWB RAW 大型クルーズ船と青函連絡船のツーショット。青函連絡船は滲みで像が崩れそうだ。

今回はどちらのレンズも開放オンリーで撮影した。その結果、旅の記録がすべて滲むわけだが、どうだろう、こういう旅写真もいいものではないか。昨今はデジタルカメラもスマートフォンも写りすぎるほどよく写る。それらと一線を画した旅の記録として、KISTAR 28mm F3.2 MとKISTAR 40mm F2.4 Mの描写は感じ入るものがあった。大袈裟かもしれないが、撮ったシーンがすぐさま思い出になる、とでも言えばいいのか……。滲み玉しばりの撮影旅、一度試してみてほしい。

製品リンク
KISTAR 28mm F3.2 M
KISTAR 40mm F2.4 M