写真・文=澤村 徹
昨今、ポートレート撮影が人気だ。女性モデルなら柔和に、男性モデルなら印象深く、光やレンズ特性を見極めながらの撮影は実に楽しい。このポートレートで使うレンズは、いわゆる中望遠は定番だ。80~100ミリ程度のレンズは、被写体から1~2メートル離れると、ちょうどバストショットが狙いやすい。ただし、ポートレートを撮るレンズにはもうひとつの切り口がある。それがキスターシリーズが得意とする大口径だ。
大口径レンズは程度の差こそあれ、開放でやわらかい描写になる。これは女性ポートレートに打ってつけの描き方だ。さらに、絞ればコントラストとシャープネスが向上し、女性ならばクールビューティー、男性なら硬派なポートレートをこなしてくれる。こうした緩急の効いた描写は、オールドレンズテイストを再現したキスターの十八番である。今回はキスター35ミリF1.4で、女性ポートレートにチャレンジしてみた。
35ミリレンズでポートレートを撮るおもしろさは、モデルとシチュエーションを一緒に捉えられるところだ。加えて、キスター35ミリF1.4なら開放で背景をうっすらとボカすことができ、情景から人物だけがほのかに浮かび上がる。状況説明的でありながら、叙情的でもある。そんなアンビヴァレントな写真が狙いやすい。また、キスター35ミリF1.4は最短30センチまで寄れる。人物の顔をしっかりとクローズアップしたいというニーズにも応えてくれる。
開放撮影ではひとつ注意点がある。それは構図だ。キスター35ミリF1.4はあえて球面収差を残し、開放でやわらかく滲むように設計している。中心部は滲みつつもシャープに写るのだが、周辺部は結像が甘くなる。四隅に被写体を配置するような構図は、開放だとシャープに捉えづらい。開放では中央寄りにモデルを配置すると高画質な撮影が可能だ。
Kistar 35mm F1.4
Kistar 35mm F1.4は、開放での柔らかなボケと絞り込んだ時のシャープな描写性を重視した広角レンズです。ピッチ研磨されたレンズとアルミ削り出しの鏡筒で、古き良き時代の質感を再現しました。フローティング構造により、無限遠から近接まで撮影距離を問わず高画質な撮影を可能とします。最新の高屈折率ガラスと非球面レンズの効果で、大口径スペックながらも小型化を実現しました。